数奇な運命

以前から、最も数奇な運命をたどった食材は、カツ丼のカツの衣ではないかと思っていた。
彼らは元々小麦である。小麦が粉にされて練られて他の食材と混ぜられて、あまつさえ、発酵させられて、焼かれてパンになる。それだけでもずいぶんと色々な経験をしたと思うのだが、パンのまま食卓に上ることもなく、再び粉にされてしまう。しかもその粉は豚肉に卵を介してまとわり付かされ、その上で油で揚げられてしまう。あぁ何と自分はトンカツになってしまった。そう思うが早いか、即座に一口大に切られて、鍋の中に煮えたぎる醤油味のダシに、タマネギなどと共に投入され、卵でとじられる。そして熱々のご飯に乗せられてしまうのである。
何と数奇な運命であることか。
ちなみに大学の頃近所の飲み屋に、「カツ丼の頭」と言うメニューがあって、「熱々のご飯に乗せられてしまうのだろうかと思ったら乗せられずにそのまま皿に盛られてしまう」と言うもう一ひねり加えたメニューがあった。しかし、「されるかと思ったらされなかった」というのは手順とは言えず、一手間かけるのではなくてむしろ一手間少ないと言わざるを得ないというのが一応の結論。
そんなことを考えたのは、「煮られて卵でとじられるかと思ったら、そのままご飯に乗せられてミソをかけられちゃった」と言うミソカツ丼を名古屋のサービスエリアで食ったから。
日本中には卵とじではないカツ丼のエリアが結構あるが、新潟の醤油ダレカツ丼、信州のソースカツ丼、名古屋のミソカツ丼あたりは経験済