国会の乱闘

国会の乱闘を見ていて、いろいろ考えた。
まず大前提として、乱闘乱闘と言うけれど、あれはいわゆる乱闘ではない。例えば野球の乱闘見たいに「ビーンボール」みたいな発言があって、それに対して瞬間的に怒って殴っちゃったと言うのが乱闘ならば、今回は違う。以前、代表質問中に下劣なヤジに怒ってコップの水をぶちまけた議員が居たけど、あれがそのまま殴り合いにでもなれば、ここで言う乱闘に当てはまるかもしれない。
暴力を振るうことによって反対者をその場から駆逐したり、力にものをいわせて賛成に立場を変えさせる等と言う意味での乱闘も、少なくとも他人の目のあるところで行われる筈がない。「金にモノをいわせて」と言うのが現在でもなされているのかももちろん分からない。味方を固めるためにであっても、表に出ない金と言うのはなかなか難しいだろうし、ましてや反対者に対してそのような危険を冒すことはほとんど無いのではなかろうかと思う。
私たちがよく見る、採決の時等に委員長に掴み掛かったり、取り囲んだりというのは、完全に予定され準備された行動であり、双方ある程度予想の範囲内の行動である。そして明白な目的がある。それは「議事進行妨害」だ。それでいうと、牛歩も不信任案や問責決議案の乱発や審議拒否等々の行為も目的は一緒であり、同様の行動ということになる。
実際に効果があるかは別にして、これらの議事進行妨害の目的は「会期切れ」であると思われる。会議のルールとして、会期終了時に継続審議の手続きがされない議案は廃案となる。そこで反対する少数者が最も有効にその議案を潰す手段が会期切れを目的とした議事進行妨害である。
時々東アジアのいくつかの国で国会での乱闘騒ぎがおもしろおかしく報じられることがあるが、おそらくいずれも同様の目的のためのものと思われる。その一方、この手の乱闘を欧米の議会で見ることはあまり無いように見受けられる。ちょっと検索してみると、「イギリスの議会でも激しい言葉の応酬はあります」なんていう記事もあったけれど、それは上述のようにあまり関係ない。アメリカの議会を見て居たら「フィリバスター」と言う記事が出て来た。連邦上院で特に少数側が長時間に渡って演説し議事を遅延させる行為のことである。日本の「牛タン戦術」と似ているが、根本的に異なるのは、「フィリバスターをする目的は多数派からの譲歩を引き出すことである。(wikipedia:議事妨害)」ということである。「弁士となる議員がフィリバスターをおこなっている間に、同調議員が多数派の切りくずしや取り引き工作、法案・条項の修正をもとめる交渉などを行う。(同)」その結果、現在では、実際に長々とした演説がされることは無く、フィリバスターが宣言されると議事が停止され、「軽視できない少数派と多数派が意見調整する(同)」事になるそうだ。
翻って、我が国のこととなると、どんな長い演説や質疑が行われようとも、直接間接的にその行為によって多数派が切り崩されるということはほとんどあり得ない。モメにもめた最終段階で、いざ不信任案を投票する際に多数派から不信任票が投じられることがない訳ではないが、極めて稀な例である。先に挙げた日本の議事進行妨害の目的に次ぐ第二の目的は、直接多数派を説得したり、そのための時間を作り出すことではなく、妨害工作によって、有権者の興味を引き、出来れば与党側の横暴さを演出し、世論の支持率を落とそうとするもの、出来ればその結果として多数派を切り崩そうとするものであろう。
フィリバスターが直接多数派に対しての切り崩しや、直接切り崩しを行うための時間稼ぎとして機能しない最も大きな理由は、日本の政党は「党議拘束」が厳しいということにある。よほど大きな変動が起こらない限り、直近の選挙結果による議席配分は動かない。先の選挙の時に全く課題とならず従ってどんな民意の反映も受けていない課題についても、有権者は全面的に「党」に委任せざるを得ないし、議員は自らの属する「党」の判断に従わなければならない。もしそこで自分の意志がその党の決定と異なるならば、党から放逐されることを覚悟しなければ、自分の意志を表明することはできない。これはとても大きな障壁になる訳だ。
振り返ってみたら、6年前に、こんな文章を書いていた。

ただし、問題なのは、ほとんどの国会議員が「党議拘束」というものによって縛られており、投票行動が本人の思想信条と一致しているとは限らないことがほとんどであるということである。なんで「党議拘束」なんてものが許されるんだろう?

改めて本当に何でだろう。