「そろそろ進化の話をしよう」の本題

というわけで、コメント
その1
今も使われているか知らないけれど、昔イギリスで、工業化が進んだ結果、色の濃い蛾が増えたという話があって、工業暗化とか、自然淘汰説とかいう現象の例とされた。うろ覚えだけれど、公害対策が進んで煤煙が減った結果、工業暗化は見られなくなったのだそうだ。これで、工業暗化は進化の例としては評価できないということになった。と言うのも、進化というのは、不可逆的な変化であると定義されている。工業暗化で白い蛾が黒い蛾に「進化」した場合、環境が再び変わったからといって黒い蛾が白い蛾に戻ることはない。環境が再度変わった結果、黒い蛾が減って白い蛾が再び増えたということは、白が減り黒が増えたという当初の変化は可逆的であり、それは進化とは言えないということになると言うわけ。ショウジョウバエの話にすれば、暗闇で1400世代飼育したショウジョウバエ群に生じた変化が、進化であると言うのであれば、その群を改めて明るい環境においてその変化が元に戻らないことを確認しなければならない。

その2
ここ10年くらいあまりきちんと進化論の変化を把握していないのだけれど、その一昔前の状況で言えば、進化論のネックの一つは進化を生み出す遺伝子の変異が何によって引き起こされるか説明できないと言う事であった。突然変異だけで有為な変化をこれだけ積み重ねるのは難しいのではないかと言うのは、創造論者などがよく取り上げる点である。実際、今西錦司を例に出すまでもなく、進化論側(?)も変異には外部環境が影響していると考えるほうが現在の主流なんだろうと思う。
件のショウジョウバエについては「通常とは異なる環境で世代を重ねることで、まず嗅覚などの感覚器官に差が生まれ…」としか記されていない。「差が生まれた」のは「通常とは異なる環境」に起因するのか、「世代を重ねる」のに起因するのか、もし後者だとしたら、暗闇は単なる選択のフィルターで、この実験は単に効率的なフィルターを見つけたというだけのこと。前者だとしたらそれよりは画期的だけれど、環境と変異を結ぶものが何であるか判らない限り、それは単なる現象の観察に過ぎない。

その3
「まず嗅覚などの感覚器官に差が生まれ、それが生殖行動に影響し、やがて種の分化につながっていくと推測できる」というコメントが付いているけれど、「生殖行動に影響し」と言うのがどう言う意味かちょっとよく判らない。判らないままに書くけれど、「種が分化する」ためには、生殖に差が生じなければならない。どんなに嗅覚が優れた変異が生じても、それが成体の生存競争にどれだけ優位であったとしても、生殖の段階でその遺伝子が生存することの方が影響が大きい。成体の生存能力の優位を生じる変異とその遺伝子が生き残るための変異とは基本的に独立している(筈だ)。その2で書いたことの続きで言うと、どんなに環境に適応した変異を獲得しても、生殖に関わる能力が優れなければ生き残ることは出来ない。そして生殖に関わる能力の優位は環境とはほとんど関係しない。
件のショウジョウバエで言えば、この実験は隔離した環境を人為的に作っているから、「通常のハエとは一緒に飼ってもほとんど交尾しなくなっていた」と言うところまで個体の差異が生じたけれども、開かれた環境において、いきなり交尾しなくなるほど固体の差異が生じるのは容易なことではない。

何だかグズグズになったけれど、とりあえず以上で。