キリスト教ナショナリスト待望論

 受難週なので、最近経験したり聞いたりしたクリスチャンの話をするよ。
 先日、ある牧師先生と十数年ぶりに再会した。再会と言っても別にそれほど親しいわけではなく、十数年前その先生が時々出没していた所に、偶然私も出入りしていて、まぁ当時からちょっと特徴のある牧師さんだったので、顔を覚えていたというだけ。私が「初めましてではないですよね」と言うとあちらも私の顔に見覚えがあったらしい。「あの頃あそこにいたんです」てな話をすると、じゃあそこでお会いしてますねと言った感じだった。で、今回はちょっと縁あって、その先生を含めて数人でお食事をすることになり、1時間ほどその先生を中心にどうでもよい世間話をしていた。食事が終ってしばらくしてから、その先生が、マンガをコピー製本したものを下さった。それは、韓国のマンガを翻訳したもので、竹島が韓国領土であるということをマンガで説明したものだった。
 その中に載っている古文書の真贋や理解の妥当性、その他多くの説や見解にあまり興味はない。おそらくネトウヨクの方なら、何らかの反論だの泥ダンゴだのを投げ付けることができるのだろうけれど、それについてここでどうこう言ったり議論するつもりは全く無い。興味があるのは、彼がそれをほぼ初対面の私に何の抵抗も躊躇もなく渡したということである。理由は解る。彼は私がそれを何の抵抗もなく受取り、場合によってはそれに同意したり、そこで示されている(それまで私が知らなかった)情報の提供に感謝したりする事を全く疑っていないのである。つまり彼は、キリスト教徒は竹島が日本の領土であると主張する筈が無いと思っているのである。


 以前にも書いたことがあると思うのだが、日本ではキリスト教サヨクであると見做される。つまり、いわゆる自虐史観に立ち、憲法9条擁護を主張し、政府のやることに反対する立場である。しかし、世界的に見るとむしろキリスト教徒は保守主義、右翼である。社会主義的な立場をとることはあるけれど、左翼とはイコール共産主義であり、無神論である共産主義キリスト教徒は不倶戴天の敵であるのだ。また今日の欧米では、社会主義イコールヒューマニズムであり、これもまた無神論であるが故にキリスト教と対立する(この辺の議論はあまり厳密ではない、ざっくりとした印象論だとお断りしておく)。もちろん欧米ではキリスト教こそ権威・権力なので、そもそも反権威主義キリスト教はあまり結び付き辛いのではないかと思う。
 一方日本ではキリスト教は新参者であり、国家権力とは結び付く事ができていない。豊臣秀吉以来、むしろ国家から圧力を受ける側であった。そして、日本のキリスト教が国家に最も阿ったのが、先の大戦の時であった。そのことは、今だに日本のキリスト教のトラウマとなっていて、韓国とか中国とか言われると途端に「あの時はスイマセンでした」と土下座してしまう。と言うのが日本のキリスト教サヨクと見做される理由であろう。(もちろん自虐史観憲法9条擁護にもまたそれぞれキリスト教的な根拠があるのだけれども、それについてはここでは触れない。)
 だから私は、キリスト教徒が「この前の戦争の時に、私らは韓国の主権を侵害し、彼らの領土意識を痛く傷付けた。だから過去の過ちをキチンと悔い改めることを旨とするキリスト教徒としては、悔い改めの印に竹島が向こうの領土だという先方の主張を受入れようじゃないか」と言う主張をするのであれば、筋が通ると思っている。もちろんそれは論理として因果が通っていると言うことであり、あの大戦時の日本の韓国領有が主権の侵害なのかということや、そこに日本や日本のキリスト教徒の責任がどれ程あるのかということや、悔い改めの印に竹島の領有権を放棄すると言う事が妥当なのかということは議論の余地がいっぱいあることは当然であるが、それはそれぞれの個別の議論である。
 しかし、件の牧師の論理はそうではない。「クリスチャンであるならば、韓国の古文書に記されている主張を全面的に受入れて、日本の古文書に記されている主張は否定する筈である」と言うのは、因果が通っていない。理屈にならない。何故キリスト教徒が無前提に国家の主張に反対しなければならないのだろうか。クリスチャンが「竹島は日本の領土だ、他国が我が国の領土を自国のものであると主張する等とんでもない」とと主張する可能性だって充分ある筈じゃないか。もし、かの牧師が、そんな人に先程のマンガを手渡したならば、2ちゃんねるで言うところの「燃料投下」ではないか。彼は大火傷をするだろう。


 とまあ、ここまで言いながら、なんなんだけど、問題はウヨクサヨクとか、自虐史観とかとは全く関係なくて、結局は彼のようなクリスチャンは、自分の立場が、全世界共通であり、皆に共感してもらえる筈であり、誰からも歓迎され受け入れられる真理である筈だと素朴にかつ堅く堅く信じているだけなんだけれど。。。
 まあとにかく、ヒドイマンガだったよ。