偉いのは

すべてのマスコミをチェックしているわけではないけれど、彼が受けた報道被害について、それについての自己検証を取り上げているマスコミはなかった。
テレ朝のワイドショーは、「14年も寝たきりの奥さんを介護し続けるなんて、なかなかできることではない。偉い」等と、見当違いの褒め方をしていた。
彼が偉いのは寝たきりの奥さんをずっと介護していたからではない。十年以上家族の介護をし続けている人など山ほどいる。彼の偉いのは、自分たちをこのような状況に陥れた犯人達、マスコミについて、愚痴一つ恨み言一つ言わないことだ。彼は、(直接乃実行犯ではないにせよ)オウムの幹部の見舞いをも受け、面会している。夫人の死を迎えて「自分たちの家族にとって、松本サリン事件は終わった」と言う事ができるのは一体どういうことか。
もし、自分が、全く何の落ち度も無いにもかかわらず、妻を奪われ、それまでの生活を無茶苦茶にされたなら、その恨みは半永久的に消えないのではないだろうか。その相手を自分の手で殺したとしても、どんなに残酷な方法で復讐を果たしたとしても、その恨みは晴れないのではないか。
もし相手が土下座して謝罪しても、その人生を賭けて償いを果たしたとしても、心の底には恨みが残るのではないだろうか。
河野さんの偉いのは、その恨みを見せず、相手を赦しているところだ。彼の心の奥底まで伺い知ることは出来ないが、少なくともその思いを見せていないところは一体何事かと思う。