バリアフリー

「無敵のハンディキャップ」という本がある。もう15年以上前の本だ。手元にある筈だけど、うろ覚えで書くと、こんな内容だ。
北島という著者が障害がある仲間たちと「プロレス」団体を作る。そこそこ好評なので、格闘技の聖地後楽園ホールでプロレスをしようと思って申し込む。すると、車椅子の人は入場できないので貸せないという話になる。彼はそこで「まあそんなこともあるさ」と諦めることはできなかった。と記す。この言葉は、同じ頃にベストセラーになっていた「五体不満足」の文章を皮肉ったものだ。どうしても車椅子の人たちと後楽園ホールでプロレスがしたい。ほかの会場ではだめなのだ。北島はその後、興行の度に「後楽園ホールを目指す!」と叫ぶことになる。
実はドッグレックスがどうなっているか、最近は余り興味がない。もう7年も前に2006-08-05 - 暴風日記こんな文章を書いている。実際を確かめもしていないが、おそらく、ドッグレックスは社会に暖かく受け入れられたのであろう。ただ、おそらくまだドッグレックスは後楽園ホールで試合をしていないだろう。北島さんはもう「後楽園ホールでやるぞ!」と叫んでいないかもしれない。しかし、ドッグレックスにとって「後楽園ホール」は、その原動力というか、ドッグレックスという団体の存在意義であり続けている筈だ。
ところで、その後の乙武さんの活躍、特にネット上の活躍をみていると、彼の「まあそんなこともあるさ」という言葉は決して偽善やイイカッコではなく、結構素なのではないかと思えてきた。これは本物なのではないかと思った。それはそれで困ったものだ、世の中強い人ばかりではないのにと思っていた。
それがここ数日の彼の叩かれ具合をみているととても興味深い。
彼はもしかすると初めて「まあそんなこともあるさ」と思えない出来事にであったのかもしれない。しかしそのとき彼には既に「発言力」という力があった。彼は「まあそんなこともあるさ」と思えない出来事を前に打ち拉がれて涙を流して立ち去るのではなく、敢然と戦おうとした。
彼がここで、世の中には、自分にはどうしようもできないことがあるのだということを本当に感じて、そこで悔し涙を流すとしたら、ようやく15年前のドッグレックスの立ち位置に立てたのになあと思う。